法月綸太郎 『一の悲劇』 感想
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----あらすじ----
冨沢耕一路子夫妻の一人息子、茂が誘拐される。犯人は私、山倉史朗の一人息子、隆史と茂を間違えて誘拐してしまったのだ。犯人からの指示で身代金の引き渡し役をする事になった私は、最後の最後でミスを犯し、身代金の受け渡しに失敗してしまう。「金の受け渡しに失敗した以上、息子の命はない」と言う犯人の言葉通り、冨沢茂は遺体となって発見される。一見単純な誤認誘拐に見えるが、その裏には驚きの真犯人が潜んでいた。
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『頼子のために』に続いてやってくれるぜ法月さん、と言いたくなるくらいやるせない話です。前三作と同様に物語の軸にあるのはやはり親子愛なんですが、ラストのどんでん返しで明らかになった犯人だと血の繋がりはない事になります。法律上は親子なので大きな違いはないですが。
今作は法月綸太郎シリーズではありますが、綸太郎は中盤に少しと終盤の謎解き部分でしか出てきません。話の性質上、綸太郎視点を交えるよりは犯人の動機や主人公の心の葛藤によりリアルに感情移入出来ると思うので、この作りで正解でしょう。久能警部は主役親子が不在の中、地味に活躍してましたね。踊るシリーズのスピンオフじゃないですが、シリーズが続くにつれて脇役のキャラが立って行く感じって結構好きなんです。久能警部は今のところキャラが立つって程の扱いではないですけど、今後に期待です。
ちょっと気になったのが、最後の最後の法月お父さんと久能警部の山倉史朗に対する尋問。義父の策略によりアリバイを無くしてしまった彼に対して疑いを持つのは当然かもしれませんが、それにしても態度が酷すぎません?何か理由があったかな?最後のほうは勢いよく読み進めていったから、あんまり覚えてないんだよな。お父さんはやっと出てきたと思ったら陰険な極悪刑事みたいな初登場で、最後も色んな意味で哀しい退場。ああ雪密室の頃の勇ましくてカッコいい親父さんは一体どこへ行ってしまったんだ。。
このシリーズって、親子や夫婦の愛情が憎しみに変わって殺人が起こってしまうわけなんですけど、
どうも納得いかない部分があるんですよね(と言っても作品として納得いかないというのではなく、実際にこんな行動を取る人がいたら、という事です)。特に親子間のいざこざの場合って、子供が一歳や二歳の状態で憎しみに耐え切れず行動に移すというのならまだ分かるのですが、ちゃんとした認識が出来るような年頃になってからそんな行動に出るというのがどうもね、犯人側に同情出来ないんですよ。いくら恨みを抱えたまま生きてきたかもしれませんけど、結局は物心付くまで子供を育ててるわけです。今更憎しみを行動に移すくらいだったら、そもそもなんでそこまでの年月子供を育ててきたんだよって話だと思うんですよね。憎しみが形になったのがつい最近というのであれば、そんな感情は押し殺してしまうべきであり、現在より過去を重んじて子供に関わる犯罪を犯すなんていうのは、絶対におかしいでしょう。勿論当事者にしてみればそんな御託は結構ってなところなんでしょうが、個人的にはそう思います。
さて何だかんだで法月シリーズも4作品読破してしまいました。人間の心に潜む暗い部分を扱った作風はとてもよく出来ていて、それこそがこのシリーズの大きな魅力です。ニの悲劇も近いうちに読む事になるでしょう。
歌野晶午 『世界の終わり、あるいは始まり』 感想
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----あらすじ----
巷で頻出する誘拐事件。それは子供を誘拐し身代金を要求するものの、指定した取引現場には現れず、短銃で人質を殺害するという残虐な犯行である。自分とはほとんど関係のなかったはずの富樫修は、ある日息子の部屋から、誘拐事件の被害者の父親の名刺を見つける。息子が誘拐事件に関係しているのか?真相を探る内に息子への疑いは確信に変わっていく。
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面白いです。タイトルとあらすじからして惹かれる作品ではありますが、その期待に答えてくれる内容だったと思います。今の時代って、街中で包丁持って暴れてる人が出る事よりも、その人物の動機が「ただムシャクシャしてた」だの「誰でもいいから刺してみたかった」だのと言った心中である事実の方が恐ろしいですよね。それならば金銭が欲しかったから強盗殺人を犯した、セックス目的で婦女暴行を働いた、といった人間の方がまだ理解できるような気がします。いえこれも決していけない事ではあるんですけど、同じ殺人を犯すという大罪であるのであればです。『世界の終わり、あるいは始まり』なんていう仰々しいタイトルですが、この『世界』は一人の男性の世界であり、彼の家族における内輪世界の崩壊に至る過程と、それを阻止しようと思案を重ねる男性の苦悩を描いています。先にも書いた通り、息子が尋常ならざる犯罪を犯したとしても、それが人間的な弱さを物語るような動機の元に育ってしまったものであったなら、この男性も父親として少しは救われるのではないでしょうか。作中ではあくまでも想像の中での話ですが、息子が誘拐殺人を犯した理由は数百万円というお金、いやそのお金すらも彼にとっては副産物であり、彼は単純に銃を撃ってみたかった、そこには人を殺してみたかった、という動機も含まれているのかもしれません。色々な意味で現代の事件の背景、暗い部分を如実に表した作品です。ただ、後半のほとんどが主人公の想像で占められているのはちょっと読むのがだるい。息子が捕まるところから数えて300ページ以上は空想の話なので、どうも間延び感がしてしまいます。衝撃的な展開かと思ったら空想、その繰り返し。ページ数は同じになるにしても、せめて空想は二回くらいで済ませて内容をもっと濃いものにして欲しかった、いえ内容は充分濃いので、やっぱりページ数を削る方がいいかな。ラストに関しては、まあこんな感じの終わり方しかないよな、というところ。結局のところ息子が犯罪に手を染めた理由、そもそも誘拐事件を犯したのは息子なのか、というところすら不明のまま終わっているわけですが、個人的にはラストよりも空想が現実だったとしたら、というところに尽きると思うので。
我孫子武丸 『ディプロトドンティア・マクロプス』 感想
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----あらすじ----
売れない探偵社を営む私の元に、その日は珍しく二件の依頼が舞い込んだ。一人は行方不明になった大学教授の父親を探して欲しいという女子大生、もう一人は「動物園にいたカンガルー、マチルダさんを探して!」という少女。調査を始めた私は、突然数人の暴漢に襲われて調査を中止するように脅される。連中の目的は何なのか?調査を続ける私にとんでもない悲劇が待ち受ける!!
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面白い、うん面白い。タイトルから受けた勝手なイメージだともっと暗い話のような気がしてたんですが、随所に見られるコメディタッチの効果でしょう、突然現れる遺伝子実験の難しい話もすらりと読めました。一見無関係な二つの依頼が裏で繋がっている、というのはドラマとかでも結構ある設定だと思うのでそんなに身構えずに読んでいましたが、まさかこんな展開になるとは。。ゴリラや熊くらいならまだ想像も出来ようものですが、巨大カンガルーvs巨大人間(私立探偵)って、こんな素っ頓狂な物語を作る作家は彼だけではないでしょうか。ただ、ひたすらコメディタッチでぶっ飛んだ展開に逃げるお笑い小説では決してありません。同じような状況に陥った主人公も感じた通り、マチルダは決して自らの意思で怪物と化したわけではなく、目覚めたら全てのものが小さくなっていたようなもの。それによる恐怖やとまどいは計り知れないものでしょう。仲良くしていた少女に声を掛けられても効果がないほど、彼女(マチルダは勿論メス)は戸惑っていたのでしょう。そこには底知れぬ切なさを感じずにはいられません。だからと言って放っておいたら街が全壊してしまう。自分と同じ境遇にあり、唯一気持ちを分かり合える存在だとは分かりながらも戦おうとする主人公。街の被害を考えれば当然のことなのかもしれませんが、肉体以上に心の中でも戦う主人公には感動すら覚えます。クライマックスは40ページほどのそんなに長くない内容ですが、とてつもないインパクトを私の中に残しました。
多分この作品を読んだ人の中には「これはさすがに現実離れしすぎ」と批判する人もいるのでしょうが、そもそも犯人当ての推理小説ではない以上、SFチックな要素があろうが現実的でなかろうが、魅力的で面白ければそれでいいのではないでしょうか。少なくとも私はそう思います。
『殺戮にいたる病』を書いた作家と同一人物とはとても思えないエキセントリックな作品ですが、読んでみて損はないです。是非ともお勧めしたい一作です。
折原一 『疑惑』 感想
| 疑惑 | |
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----疑惑 あらすじ----
『引きこもりの息子が放火魔かもしれない』、母親は"疑惑”を抱いていた。息子が夜な夜な部屋を抜け出している事を知った母親は、疑惑を払拭するため息子を尾行する。
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どこか一癖ある家族はまさに折原ワールド。30ページという短い話なので無駄を一切省いたという感じ。簡潔な話なのでオチは読めましたが、母親にとってはいい結末なのでしょうね。
----交換殺人計画 あらすじ----
博之は血の繋がりのない父親の殺害計画を立てた。計画は完璧に見えたが、父親もまた息子の計画に気づいていた。二人の頭脳戦の行方は?
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うん好きです。短い話なので分かり易く、折原流の仕掛けも至ってシンプル。30ページなんかすぐに読み終わってしまいました。
----危険な乗客 あらすじ----
ある目的を持って電車に乗りこんだ女と妙な臭いをさせる紙袋を持った隣の女。世間を騒がす連続殺人犯。怪しげな空気の電車内で折原マジックが炸裂する。
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そのまんま世にも奇妙な物語で実写化出来そうな話。叙述トリックがどうとか抜いても面白い。殺人犯の正体を見抜くくらいの頭脳を持ち合わせた女性が本当に一般人なのかは考えない事にしましょう。
----津村泰造の優雅な生活 あらすじ----
一人暮らしの老人、津村泰造の家にホームケアセンターと名乗る男が訪ねてくる。床下の換気を良くするように勧められ、男の好印象な人柄も気に入り装置の購入を決意するが...
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さすがはこの手の話のプロ中のプロ、作中に仕掛けられたトリックは一筋縄ではいかない。それが驚きのレベルに達しているかはともかく、展開の裏切りが用意周到です。叙述トリックを使いますって宣言してるような作家さんなので、どうやれば欺けるか、文章の作り方が他者とは一線を画していると思います。
西澤保彦 『ナイフが町に降ってくる』 感想
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----あらすじ----
女子高生の真奈は驚愕する。街を歩いている途中で突然周りの人間全てが動きを止めたのだ。人間だけではない、自動車などのあらゆる物体が、止まるはずのない状態で動かなくなっている。彼女が不思議に思う間もなく現れたのは、この事態を引き起こしたのは自分だと言う青年末統一郎。彼は何か疑問に思う事が起こると、周りの全てをストップさせてしまう“癖”があると言う。彼に癖を発動させたのは眼前でナイフを刺したまま突然倒れた男。真相を探る二人は、男以外にもナイフで刺された人たちが存在する事を知る。時が止まるSF世界で繰り広げられる変り種推理小説。
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ネタバレしてるので一応行空けます。
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面白いですし一気に読んでしまいましたが、前回読んだ『七回死んだ男』と比べるとどうしても今作の方が劣っていると言わざるをえないというのが正直な感想。まず時が止まる、作中の言葉を借りるならばストップモーションと言う設定自体は凄く興味深いし、同時刻に様々な場所で刺された被害者?たちという事件にはとても惹かれます。ただ、ナイフで刺された人たちをリレー方式で追いかけていく道のりが途中から億劫になってきます。と言うのも被害者13人中ほとんどが同じ状態で見つかるので、同じような文章を何回も見せられて飽きてきます。途中の下ネタ+常軌を逸した悪戯の連続にもちょっとテンション下がっちゃったという印象。
まあ最初に書いた通り、こんな風に感じるのは『七回死んだ男』の出来が良すぎてそれと比べるからで、この本単体で見ればとても面白いです。先に語ったような点が欠点としてあるのは事実ですが。
最終的なオチである『時が止まってから行われた犯行』という事実は読めたのですが、さすがにヒロインが犯人であるというのは読めませんでした。そもそも時間が止まるなんていう現実離れした世界に行ってしまったにしては、こんな冷静な思考での行動を取れる事が不自然ではあるのですが、まあそれは目を瞑ってもいいでしょう。ところでこういうトリックって叙述トリックって言えるんですかね?犯人側の行動を意図的に隠すと言う意味ではやっぱり叙述ですよね。


脇役となった名探偵
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どっちつかず…
イライラ




